坂口恭平という人間 書評:『生きのびるための事務』『その日暮らし』
先日、坂口恭平の『生きのびるための事務』『その日暮らし』を読んだ。彼の圧倒的なエネルギーを受け取ったので、書き残しておきたい。
きっかけは、Xでフォローしている著名人たちが一斉に『生きのびるための事務』をすばらしいと評価していたのを見かけたから。
恥ずかしながらわたしは坂口恭平氏のことを知らず、Wikipediaで彼のことを調べて驚いた。まず電話番号を公開して、「いのっちの電話」と称して死にたい人からの電話を24時間受け付けている。なんじゃそら。わたしの常識が音すら立てずに消失した。
そして、建築家、画家、作家、音楽家と、マルチに活躍している。先日マルチポテンシャライトの記事を書いたが、彼のようにいくつもの分野を仕事にすることや、その方法に興味があったので、さっそく『生きのびるための事務』を購入して読み始めた。
書評:生きのびるための事務
『生きのびるための事務』には、背中を押された気がした。わたしは音楽や文章などの芸術を生きがいとして志しているが、現状それではとうてい食べてはいけない。本には、好きなことと、仕事の両立についてのヒントが書かれていた。
たとえば、10年後の理想のスケジュールをたて、次にそれにつながるように日々のスケジュールを立てて実行する。計画を立て、信念を強く持つ。これ自体はよく言われることなのだが、芸術や創作活動などの抽象的なイメージに終始しがちな物事についてもしっかり数値化・論理化することの重要性が語られている。そして、それこそが「事務」なのだ。
坂口氏の実体験を基に、漫画形式でスッと胸に入ってきて溶けた。この本には、よくある自己啓発本にはない、人を動かす不思議な力があった。わたしが無職の今、ゲームをそこそこにこうやって頻繁に文章を書けるのもこの本のおかげである。
「好きなこと」をひたすらに続けることで、何かが起きる。本は「どうせ最後は上手くいく」という合言葉で締められる。うっすら抱いていた、わたしの希望をそっと撫でられたようだった。好きなことを、志したことを続けようと思った。
書評:その日暮らし
『生きのびるための事務』を読み終えたわたしは、すぐに坂口恭平の新刊『その日暮らし』をAmazonで注文した。この人のことをもっと知りたい、この人の書く文章を読みたいと思った。
坂口恭平は鬱を抱えている。この本は、そんな彼が鬱になっている時のありのままの思いや、日々の家族や周囲の人との出来事などを記した短編エッセイ集である。
10ページにも満たない、ひとつひとつのエピソードに「え?」と5回以上思わされるほど、彼の考えも行動も、そしてそれによって引き起こされる出来事にも、驚きの連続である。読みながら、自分の視野がグンと広がっていくのを感じた。
彼の生きざまや思考に驚き、感銘を受けると同時に、わたしもこういうことがしたいと思った。彼と同じことをするのではない。そんな才能はない。似顔絵を描けば、隣の席の女子が半泣きになった過去があるぐらいだ。そうではなく、ただ彼のように、信念を強く持ち続けて行動したい。それによって、日々はより善く、面白いものになると思った。
本のあとがきには、坂口氏が根源に抱える「寂しさ」にたどりついたときの描写が添えられる。その寂しさの源を観た彼の言葉や、そんな生命の構造に思いを馳せ、読みながら涙してしまった。「坂口恭平とはどんな人なんだろう?」と軽い気持ちで手に取ったら、とんでもない人物であった。
本には、坂口氏が鬱により自己否定に陥っているときの原稿も収録されている。こんなことを書いている。
この原稿は使わないかもしれない。それでも書いてみることがいつも次につながってきた。
辛くても、そのまま書いてみたらいいじゃないか
※坂口恭平『その日暮らし』より引用
自己否定に陥っているときの彼は、「進もう」と積極的に考えているわけではない。「これまでこうやって乗り越えてきたから次も同じように進めるだろう」という経験があり、そして「(鬱状態でも)そのまま続けて書いて(描いて)、それを捨てないで」と言ってくれる知人がいた。
あらゆる不安が自身を取り巻く中でも、物憂げな表情で歩み続け、心が赴くままに表現し続ける彼の姿が文章に表れていた。人間の素直な姿だと思った。
その後:坂口恭平を追って
『生きのびるための事務』と『その日暮らし』を読み終わったが、引き続き坂口恭平を追っていきたい。無職でお金は無いので、図書館で他の著作を借りてゆっくり読んでいる。
そんな折、糸井重里と坂口恭平の対談がほぼ日で連載された。
その対談内容は、文章術の名著『読みたいことを、書けばいい』の筆者・田中泰延氏をして言葉を失わせるほどである。
二人の全17回にも及ぶ対談はコチラ。もっと読みたすぎて、1700回やってほしかった。彼は常識とは関係なく、しなやかに何かを創っているだけだ。そうして自然が移ろうように、彼は生きている。そこには自然とたくさんの物語が生まれる。偶然のように思える彼のすべてが、必然だと思える。
というわけで、これからも坂口恭平氏を追っていこうと思う。語彙力の低下を甘受して書くが、この人、まじでやばすぎる。ありがとう。彼に刺激を受けながら、わたしは筆を取り、ピアノの鍵盤に向かいながら日々をすすめていくこととする。
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