2021-04-28

大学時代のヤンキー風ヤンキーの話

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ふと思い出した、大学時代のヤンキー風の友達の話。

大学には、実家から1時間半かけて電車通学した。
高校時代ピアノかパソコンばかりしていて遊びに出ることがあまりなく、
私服が全然なかった私は、大学入学時に着る服がなく買いまくった。

大学入学後から遅刻ギリギリかギリギリ遅刻ぐらいで授業に出ていた私は
大体最後列の席に座り、同じように遅く人やチャラいやつらの近くで講義を受けていた。
その中でも堅物の坂野君や、ヤンキー風の中井君と一緒に居ることが多かった。
堅物坂野君は何事もきっちりしているが表に出るのは苦手で好んで最後列に居るらしい。
私はというと、出入り口から近いから最後列にいるような、ただのものぐさから最後列に居た。
一方で、アニメでしかみないような茶髪リーゼント頭の目つきの悪い中井君がなんでそこにいるかは聞いてないが、
多分私と同じような理由か、キャラ調整みたいなもんだったんじゃないか。

私と中井君は遅刻や欠席が多かったので、よく坂野君にノートを見せてもらった。
たまに坂野君が居ないと、中井君はわたしのノートを借りていって、後日ありがとうと返してくれた。
これまで字が汚すぎるという理由で誰にもノートを貸したことがなかった私は感動するとともに、
中井君は本当は私のノートが読めなかったに違いないと確信もしていた。私ですら8割ぐらいしかわからないのだ。
中井君が私のノートを解読して写していたのか、読めずともありがとうと言ってくれていたのかはさておき、
彼は茶髪リーゼント目つき悪しの割に普通に我々とコミュニケーションをとっていた。ヤンキー風なのか。
彼の理想像がこれなのか。心優しい、ヤンキー風ファッションを愛する青年なのか。私は分かりかねていた。

ヤンキー風中井君とは体育の授業でも一緒になった。
体育は20種類ぐらいから好きな講義を選んで受講するものであり、私たちはトレーニングを選んだ。
講義内容はジムで筋トレ・ストレッチなどを行うもので、初めて器具を使った筋トレをやった。
この講義では、筋トレ器具をうまく使えるか、ストレッチを正しい姿勢・形で行えるかなどが評価対象となり、
定期的に実技テストが行われた。
私はダンスやストレッチのような、姿勢や動きをコントロールするのが苦手だったので不安だったが、
ジム内で鏡に映る自分を見ながら練習をするなど頑張り、何とかテストをクリアできた。
私も苦手だったが、中井君も私以上にストレッチが苦手だった。
スクワットのテストを控えていたとき、中井君と私が横に並んで、
鏡に映る自分を見ながら、時には横を向きながら姿勢を正して練習していた。
スクワットの時に腰をまっすぐ真下に下ろし、またまっすぐ上げるという動きを練習するのだが、
私がどうにか形になってきても中井君はまだうまくできず、どうしても体が曲がってしまっていた。
そんな状態でスクワットのテストが始まり、ついに我々の番が来てしまう。
私は何とかクリアしたが、中井君はテストでもうまくいかなかった。
すると中井君は「もう無理だよ~めりこま君」と言った。
かわいらしいというと失礼だが、同じ運動苦手人間としてすっと彼の気持ちがわかった。
頑張ってもどうにもコントロールできない体の動き。昔私もダンスや体操でいろいろあった。
そして結果うまくいかなかったときの、いたたまれない感じや、でも頑張っていてどうしようもない感じ、
全部詰まって彼は、もう無理だよと、その鋭い目つきと茶髪リーゼントをもってこちらに伝えてくれたのだ。
よくわかるよあなたの気持ちは。

そんな中井君だが、彼は急にいなくなってしまった。
入学して2か月程たった6月頃、彼は講義中に他の学生を殴ってしまった。
私は、その現場を少し離れたところから見ていた。詳細は後から聞いたが、
前列から後列にプリントを回していたとき、前の学生が彼にプリントを渡さなかったらしい。
故意なのかそうでないのかはわからないが、それに腹を立てた中井君が相手の学生を殴ってしまった。
殴ってしまった彼は、すぐその場を立ち去った。
それからしばらく彼を見ることはなかった。
事件から2週間ぐらいして、中井君が停学に処されているのを張り紙をみて知った。
そりゃそうだよ、中井君――

大学1年の春~夏頃はどうやら忙しいらしい。
私はのんびりと図書館に行って専門書が多いことに喜びながら哲学書をはじめとしたいろんなものを読み漁っていた。
周りは、バイト、サークル、自動車学校に行ったりしているみたいだ。
私は暇すぎて夏から自動車学校に、秋ごろからバイトを始めた。
自動車学校もサボリ癖が如何なく発揮され、期限切れになりそうだったので半年かけて冬に免許を取った。
バイトは、必要最低限しかしたくなかったので家庭教師だけをしていた。
冬、大学からの帰り道に、最寄駅から自宅に自転車で帰宅する。
澄んだ空気で、冬の匂いがする。昔、遅くまで遊んでいたころを思い出す。


「中井君は?」


ふと中井君のことを思い出した。
せわしさに埋もれていたのか、私が彼を埋もれさせていたのか。
番号交換したから電話帳には入っていた。

[中井くん]にコールをする。

『現在この電話番号は使われておりません』



1,2か月の短い間、それも授業中ぐらいにしか喋ることなかったが
私のノートを初めて借りてくれたのも彼だし、スクワット苦手仲間だとも思っているが
彼は周りが言うようなただのヤンキーではなくて、
ヤンキー風ヤンキーなんじゃないかと思う。
殴ってしまったのも彼だが、「もう無理だよ~」と嘆くのも彼だった。


僕らも、世の中も、いろいろとありますね。





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