2022-03-27

父は巨人化せずに、私を病院に連れて行こうとした

Pocket

「おまえが何を考えているかまったくわからない。
今年中に仕事を決めなければ、おまえを病院に連れて行こうと思う」


これは5年前の冬、父親が私に放った言葉である。

ちなみに進撃の巨人の第31話でライナーが言ったのは
「もう俺には何が正しいことなのか分からん」である。
似ていそうで似ておらず残念である。
あのとき父親は巨人化せず、ただ陰鬱な表情で私を見つめていた。
 

就活~大学卒業

私は大学卒業後、最初に勤めた学習塾の会社を2年半で退職し、
1年間(厳密には10ヵ月程度)ニートをしていた

周囲が就活を始めた頃、私はなかなか働く実感がわかなかった。
卒業研究の合間、ときどき家でボーっと天井を見たり、
ラジオを聴いたりしてこれからの人生を考えていた。
(ちなみに当時繰り返し聴いていたのは、
 ニコニコ動画に上がっていた『メロキュアの沈黙のradio』)
新卒で就活をしていたときに書いた履歴書は3枚、
採用試験を受けたのも3社のみであった。

私は履歴書を書くのが大嫌いだった。今もだ。
書いていてつまらなくて、書き終わるまで精神力が持たないのである。
氏名・住所・生年月日ぐらいまでならなんとか持つのだが、
履歴書、あれはあまりに長すぎる。特に書きたいこともないし。

というわけで受けた会社は、
①人材派遣会社②学習塾③島根県庁の3つである。島根県は会社ではないか。
先に、同時期に二つの会社を受けた。

1つ目の人材派遣会社の方は一次選考は通過したのだが、
二次選考の直前になって「他社で内定が決まりました」と嘘をついて行くのをやめた。

2つ目の学習塾の方は、一次試験の日に10分ぐらい遅刻して到着し、
中学レベルの学力試験で理科がボロボロで落ちた。
ここに遅刻したのも履歴書が書きたくないのが理由であった。
当日、試験会場の最寄り駅の公衆電話横のスペースで書き上げて、
構内で証明写真を撮ってのりで貼ってたら遅刻した。
それで遅刻してるのになぜか自販機でジュースを買って
トイレで飲んでいた。
人生、試験の遅刻ぐらいで焦っていてはいけない。落ちたけど。


2社にご縁がなかったことで、
しばらく部屋の天井を見て考えた結論は以下の通り。

・やりたいことはない。
・(本当は)働きたくはない。

そこから導き出したのは、
事務仕事で、かつ定時に上がって最低限食っていけるような仕事
というわけで公務員試験を受けることにした。
ただ、試験まで残り1~2か月だったので、
日本全国の中で一番、教養試験の採点比重が高いところを選んだ。
専門的な科目の比重が高いと間に合わないと考えたからだ。

結果、当時は島根県が候補に挙がったので受けた。
2万円分買った過去問の勉強の甲斐があって
1次選考は合格したのだが、作文が書けずに辞退した。

さてそうしてくると、いよいよ大学4年の秋に入ろうとしていた。
私は内定が無いまま、先延ばしにしていた卒論に取り組む。


研究と論文執筆が、たのしかった。
そのとき、わたしは自分の心のドアを一つ開いた。
本当は知りたいこと、研究したいことがあってこの大学に入ってきたのに、
私は3年半もの間そのことを忘れ、いや、見て見ぬふりをして、
ネットゲームに熱中してきたのだ。

卒論のために、10冊も20冊もあちこちの図書館を回って、
取り寄せて、買って、ただただ調べて論理を組み立てることが楽しかった。
卒論提出の期限が迫っており、期限に間に合わねば卒業できないことも
研究に集中できる要因ではあったが、それだけによる熱量ではなかった。

それまでネトゲ中毒だった私が、外出時も家の中を歩くにも
常に研究書と仮説メモを携えて行動し、
食うときと寝るとき以外はずっと資料を読むかノートに書くかしていた。

それが、たのしかった。
そしてその快感は、ゲームで敵をキルしまくった時のそれでも、
試験に受かった時のそれでもなかった。
卒論を執筆していたとき、あのとき私は、
もはや思考を通してわずかに外界と接触しているのみだった。
ほとんど私はこの世界にいなかったのではないかと、
そう思えるぐらい”わたし”の像は、日常風景に映っていなかったと思う。

さてそんな卒論を無事に12月に提出し、冬休みを迎える。
いよいよ日本電信電話、いやNTT、いやNNT、
つまり内定が無いまま、大学4年の1月が到来してしまう。
新卒就活、最後のあがきの時期である。

私は、また独り部屋にこもり、天井を眺めていた。
やりたいこと?やりたくなくても続けられること?
自分がやりたいと思っていることは、本当にやりたいのか?
本能は?私は食べたいと思って食べてるのか?

いよいよ本能すら疑い始めていた。
得も言われぬ暗い存在に心臓の両側をつかまれているような感じで、
穏やかに暮らすことが難しくなっていた。

このまま成るように進んでいき、
自分が働いていなかったら家族に迷惑だし、文無しでも家を出て
ホームレスをやっていくか、野垂れ死ぬか、それでいいか


そんな風に考えるようになっていた。
そして気づくと、
家の外から聞こえる、卒業生の声、母親の声、入学生の声。
どうやら、私は時間に置いて行かれたようだ。
桜も散る、4月初旬になっていた。
仕事が決まらぬまま大学を卒業していたのである。

大学卒業後


1日30分ぐらい、パソコンをカチカチして仕事を探すふりをする。
さすがにここまで追い込まれてゲームをすることはなかった。
でもそうすると暇で仕方ない。
私は、ふとんで大の字になって天井を見るか、
ウォークマンに移したメロキュアの沈黙のradioを聴くか、
ピアノを弾くか、音楽を聴く。
それぐらいしかすることがなく、1日1日がとても長く感じた。

ところで、メロキュアとは、
日向めぐみ氏と岡崎律子氏からなる音楽ユニットである。
あの時は特に岡崎律子さんの音楽や人間性に魅了され、癒され、
尊敬をしていたので、ラジオや音楽を通じ
少しでも彼女の表す感情や愛について触れ、
また想像し、頭の中で対話しようとしていたのだ。
おそらく私に欠けているもので、
岡崎律子さんが深く体現・表現されているものが愛である。
素直さ、優しさ、愛、あるがままであること、
それらがいかに大切なものであるかは、彼女から学んだ。

昼過ぎ、ボーっと天井をみて音楽を聴いて、
気づくと少し眠っていて、夕日が差し込む時間になっている。
これが、就活だの何だの言う前なら、数年前ならば、
とても心穏やかになれる瞬間だったのに。


武田鉄矢が少年期で
目覚めた時は 窓に夕焼け 妙にさみしくて 目をこすってる
 そうか僕は 日差しの中で 遊び疲れて 眠ってたのか

と歌ったように、
寂しくも穏やかになる、あの生を感じられる瞬間は私にはもう訪れない
ただ、アイツに心臓をつかまれるだけなのだ。
これからどこに行こう、どうなってしまうのか。
そんな風に考えていた。
 

そんな時だった。ちょうどGWぐらいに、祖母が死んだ。
自宅にて、老衰だった。

髪が伸びてボサボサのまま通夜、葬式に行った。

祖母は、いつも寿司に大量の醤油をつけるので、
集まった親戚一同にいつも笑われていた。
祖母は、小学生の私を抱っこして、木登りを手伝ってくれた。
あの時実は、体が祖母の胸にあたり恥ずかしかった。
祖母は、頑固な祖父と暮らしながらも、
いつも穏やかな人で、静かな瞳をしていた。

私は無職で大学を卒業した。
祖母は居なくなった。

事実が連なり、時が流れていく。

5月になり、祖父から畑作業に誘われる。
仕事してないならバイト代やるから来いと。
祖父と祖母、ふたりで回していた畑だ。
朝8時という、既卒無職昼夜逆転ニートには恐ろしい時間に集合だった。
それでも何とか起きて、
家にあった原付に初めて乗って、祖父宅まで行きトラックに乗り込む。
祖父は裸足でトラックを運転していた。
ちなみに現在私が下駄で外出するときに、
裸足でアクセルやブレーキを踏むのは彼の影響がある。



午前中は田んぼの作業で暑い中体を動かし、
昼休憩で日陰でコンビニのおにぎりを食べた。
おいしかった。
体を動かしてから食べる飯は格別である。
それにしても、こんな大変な農作業をしている祖父たちはすごい。

午後の作業が終わり、バイト代として5000円貰った。
嬉しいが、これがすごく情けなく惨めであった。

数回の田んぼ作業バイトを終えた頃、
ネットで近くの学習塾の求人を見つける。
この惨めな生活から抜け出さねばと思い、
とりあえず面接の予約をした。

後日、面接に行く。
人手不足だったからか多忙だったからかわからないが、
1発目から代表との面接であった。
天井を見て考えていたことや祖母の死の話をすると、
とりあえずここで働け
働きながらいろいろと次を考えろ
など言われる。
私の方も、就職の焦りはあったがこの会社に長くいるつもりはなかった。
その辺も含め、会社側と自分で意向がマッチングしたため
その場で採用が決まり就職することになる。

鬼のいる部署

学習塾に入って半年経った頃、
2つの決定的な問題に気づき始める。

1つ目が、自分が塾に向いていないこと。
自分自身のスタンスが、
『勉強はある程度頑張ればもういいじゃん、
 そんなことより若いうちに好きなもの見つけよーぜ』
なので、仕事中に
本音を押し殺して勉強第一みたいな言動をするのがストレスであった。

 
そして2つ目が、自分の部署に鬼がいるということ。

※写真はイメージです。


入社してしばらくして分かったことだが、
自分が配属された部署は上司が鬼のように厳しいため、
ここに配属になった社員が数ヵ月ごとに辞めていったらしい。
Sure. YES. That’s right. 確かに厳しい。そうなるのもわかる。
今の知識であればパワハラであったと断言できる。
という部署で、結局2年半勤めて
きりが良いので退職することになる。

この2年半、実家暮らしなので貯金が150万ほど貯まったが、
アップライトピアノと中古のボルボをそれぞれ即決で購入し、
貯金ゼロand借金ゲッツandターンandリバースとなる。
あれから6年ぐらい経った今、貯金は10万円である。悲しい。

ニート生活から

晴れて4月から無職になった私は、
「夏ぐらいから就活し出す」と言いながら、
軽井沢に5泊車中泊の旅に行ったり、
海に通って海岸の人気のないスポットで本を読んだりしていた。
……というのは、メディアのように良いポイントをかいつまんだ言い方である。
実際は、ほとんどネトゲ(League of Legends 通称LOL)とピアノで、
たまに出かけたり旅行する程度だった。

そして夏頃には朝10時就寝・19時起床の美しいまでの昼夜逆転生活がスタート。
仕事を決めなければというストレスから、
ゲームに負けるとイライラして
スマホを壁に投げつけて破壊する(人生で5回ぐらいやった)。
だんだん家を出ることが減り、ついには外出は深夜のコンビニ(昼食)だけになる。

そんな私に対し、両親は
「夏を過ぎたぞ」
「9月中に」
「10月中に」
と仕事を決めるよう急かしてくる。
私はただ返事をするだけであった。

パソコンでカチカチするも、かなり仕事を選んで探しているため
一向に応募したい(応募してやってもいい)求人が見つからず、ついに冬になる。
いよいよ穏やかな父が、

「何をしたいんだ?」
12月中に決まらなければ、家から追い出す
「おまえが何を考えているかまったくわからない。
今年中に仕事を決めなければ、おまえを病院に連れて行こうと思う」


と険しいトーンで口にする。
私は
「特にやりたいことはないし、これという業種もないよ」
「目指すものも何もないから、ただどうするか考えてる」

と返すだけであり、やはり親はもやもやした様子である。

私は、あの穏やかな父親をして、ここまで言わせた原因について考えた。

・両親と私と間での危機感・焦りの差異が大きいこと。
・私が無口で特に話さないこと。
・やっと話したとおもったら「目指すものはない」。

客観的に見ると確かに得体が知れなくて、
病院に連れて行きたくなる。

病院に連れて行きたくなるのもわかる

たぶん、最終的にこれも父に向かって口にしてしまった。
コントではなく現実のやりとりである。文章にして書き出すとやばい。


そんな中、確か11月~12月ごろに初めて転職で
採用試験を受けに行ったのが、ゼ〇シィである。
生涯独身予定のくせに、他の会社と比べて
直感で面白そうだなと思ったので受けに行った。
結果、不採用。一次選考・二次選考は通過したが、最終選考で落ちてしまった。
これは面接時に思い当たる言動があって、
志望動機か何かを話しているタイミングで、
急に私が上から目線バカヤロウになったことだ。

私「ただ私もこうやって最終選考を受けさせていただいていますが、やはり最終的には
ご縁だと思います。それが故に私が落ちるのも、採用していただけるのも、どうしようもないことだと考えます。」

たぶん、元から性根が腐ってるのが、
半年のひきこもり生活でさらに歪んでしまい、
性根が腐れ・ひねくれ・ねじれの三連技を決めてしまっていたのだろう。
リクルートさん。失礼いたしました。

そのリクルート事件からしばらく経ち、大晦日を迎える。
大晦日、つまり家を追い出される期限である。
しょうがない。終わりである。

ただ、年明けすぐに良さそうな求人をみつけ応募。
面接が正月休み明けであったため、
1月いっぱいまで私の実家退去期限を延長してもらうことに。

人生とは不思議なものである。
結果、この会社に採用され、現在も働いている。

失敗】ミッション①:両親に病院に連れていかれる。 
達成】ミッション②:期限内に転職を成功させる。 


入社後人事に面接の話をしたところ、
「離職中に初めて作曲にトライして初めての小説書く奴は面白いと思った」
と言われた。
これ実はちょっと盛っている。
初めての作曲はしたけど、初めての小説は断念した。
トライはしたから、セーフでしょう。

ところで、
私がこの会社に入社すると決まった時に
家族のサポートを受け、初めての一人暮らしをすることになる。
ここまで書いてご存知の方も多いと思うが、
私は診断こそないものの、ADHD的な脳をしているらしい。

来週のサザエさん次回の記事は、

  • 私が引っ越して1カ月で汚部屋を作り上げたこと
  • 10万円の給付金の申請書を放置して、もらえなかったこと
  • 会社とバトル!鬱気味の同僚を退職させたこと

の三本あたりをまとめて、
無限掃除編や限界バトル編を書いていく予定。

またね!


Pocket

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です